2017年、渋谷区主催でスタートした
ササハタハツ(笹塚・幡ヶ谷・初台)を
盛り上げるための取り組み。
2018年までは「ササハタハツまちづくりフューチャーセッション」、
2019年からは「ササハタハツ(仮称)まちラボフューチャーセッション」
(以下、セッション)として
官民が連携してさまざまな事業、
プロジェクトを進めています。
2019年4月の区長選でもササハタハツに関して
公約に掲げている長谷部健・渋谷区長は
ササハタハツにどのようなポテンシャルを感じ、
どんな将来像を思い描いているのでしょうか。
改めて聞かせていただきました。
長谷部健(ハセベケン)・渋谷区長
1972年、渋谷区神宮前生まれ。神宮前小学校、原宿中学校卒業。株式会社博報堂を退職後、NPO法人green birdを設立。2003年、渋谷区議会議員に初当選し、以後3期渋谷区議員として活動。2015年、渋谷区長に初当選し、2019年再選を果たす。
ササハタハツに90年代の恵比寿と同じにおいを感じる
ササハタハツ新聞
区長がササハタハツで注目されているのは、どんなポイントでしょうか?
長谷部区長
それはもうたくさんありますよ!
大きなキーワードになるのは「西参道」「緑道(玉川上水旧水路緑道)」「水道道路」ですね。あとは「笹塚駅の南口地区」も。この辺りの再整備を軸にササハタハツは変わっていくでしょうね。
例えば、同じ渋谷区にある恵比寿という街は、僕が高校生くらいまではビール工場があって、駅前も今のように華やかな雰囲気ではなかった。恵比寿ガーデンプレイスができるときは「恵比寿に高層ビル!?」と思ったけど、そこから昼間人口が増えて、大人向けの店やホテル、ホールができていった。渋谷川沿いも昔から氾濫が多かったため、家賃の安いエリアだったけど、それを逆手にとってあの辺りにチェーン店ではなく個人が起業する飲食店が増え始めたんです。さらにそこに代官山のファッションのお店や、渋谷発のITやベンチャー企業が入ってきて、それがうまく交じり合って今の恵比寿という街ができあがっていった。
その恵比寿と同じにおいを僕はササハタハツに感じているんです。
ササハタハツ新聞
恵比寿と同じように、いろいろなエッセンスが交じり合って、ササハタハツが発展していきそうだということですね。
長谷部区長
「奥渋」や「裏原」のように、街は中心部からだんだん際へ際へと広がっていますよね。今は代々木八幡や代々木上原にも、ファッションのお店が増えてきている。見る人によっては渋谷のど真ん中よりも、あの辺りのほうがクールだと感じるほどでしょう。あれがもう少し広がっていくとササハタハツまで届きますよね。西参道、緑道、水道道路を再開発する中で、そういったことも意識すると、これからいい変化が起きるんじゃないかな。
水道道路から全国に展開できる「渋谷モデル」が生まれる?
ササハタハツ新聞
区長は緑道の再開発について、ニューヨークのハイライン(※1)をよく事例として挙げられますよね。
長谷部区長
そうですね。今までは全長約2.6kmもある緑道をどう活用するかなんて考えもつかなかった。でもハイラインの例があることで、ああいうアウトプットが出せたらいいんだというのが分かってきた。緑道はポテンシャルを持つ場所だと思うので、再整備計画が進んでる今こそ、チャンスだと思います。
ササハタハツ新聞
水道道路に関してはいかがでしょうか? 道路自体は都道ということで、東京都との連携も不可欠ですね。
長谷部区長
もちろん、東京都とも協議を進めています。水道道路沿いには都営住宅が建ち並んでいます。また周辺には木密地域(※2)があって、都から不燃化特区にも指定されていることから、災害についても考える必要がある。都営住宅を含めて住民の高齢化問題もあり、独居の方も多いです。さらに、1DKや1Rの住宅が多くて歌舞伎町で働くシングルマザーが住んでいたりも。現在の東京が抱えている課題がぐっと詰まったエリアなんです。
今、本気でやろうと思っているのは、水道道路を中心にしたあのエリアでITインフラを整えて、Wi-Fiや5Gなどがつながるようにすること。この前、とあるスタートアップのピッチ大会(※3)を見ていたら、Wi-Fi環境の中でウエアラブル端末(※4)を身に付けると、現在の体調がすべて分かるということを話していた。つまり独居の高齢者の見守りもWi-Fi環境があれば可能になる。
新たなイノベーションが起きる環境を行政が整えるので、そこにある課題をNGOやNPO、社会起業家たちに解決してもらえたらうれしいよね。都とも組んで、それがうまくいけば、渋谷モデルとして他の自治体にも展開できるかもしれない。
ササハタハツ新聞
ササハタハツから全国に発信できるようなイノベーションが生まれるかもしれないということですね!
長谷部区長
ササハタハツは立地的には都庁にも近いし、ITのインフラがある渋谷の中心部と一緒に、シリコンバレーとサンフランシスコみたいになったらいいなと。今は渋谷区の中心部とササハタハツでは交通の便があまりよくないけど、例えば山手通りと緑道だけはセグウェイの通行を許可したら行き来がしやすくなる。そんな行き来がしやすいモビリティを導入していけば、ササハタハツでもベンチャーを興そうとする人たちをひきつけられるかもしれない。
住む人にも、昔住んだ人にも愛される街・渋谷
ササハタハツ新聞
そういう先進的なことが発展していく可能性もある一方で、ササハタハツの良さとして「渋谷区ながら、下町情緒が感じられる地域であること」を挙げる人もいますよね。
長谷部区長
確かに渋谷区にはササハタハツや恵比寿など下町情緒を感じられる地域もある。ただ新たに開発された土地だから、300年前、500年前から住んでいる人はいない。だから、若い人、新たに街に入ってくる人にもある程度寛容なのではないかと思うんです。旧住民も「自分も出てきた身だから」と思っているから、新住民も受け入れやすい。これは渋谷区の特徴でしょうね。
一方で、渋谷区全体に言えるのは家賃が高い! だから嫌々住む人はいなくて、みんな街に対して何かしらの思いを持って選んで来ている。ササハタハツは渋谷区内では家賃が安い方だけど、それでも周辺の県に比べれば高いから、やっぱり嫌々住んでいる人は少ないよね。
ササハタハツ新聞
周りを見ていると子どもの数が増えた結果、致し方なく郊外に引っ越す方も少なくないですよね。
長谷部区長
そういう事情もあって渋谷区の転出は30代40代が多いんです。一方、転入してくる人は全国から集まってくる。僕のポジティブな解釈だと(笑)、初めて東京に住むなら渋谷区がいいと思って選んでくれているのかなと。
転出する人のデータを見ると、京王線や東急線沿線、埼玉県、神奈川県が多いんですよね。初台から府中市に転出とかね。「会社に通いやすいから初台に住んでいたけど、ここでは住みきれないから京王線沿線の府中市に」というような事情なのかなと推測します。そこから考えると、嫌々住んでいる人もいなければ、嫌になって出ていく人もいない。新しく住む人も、出ていく人も街に対してポジティブな気持ちを持ってくれている。だからこそ、新たなコミュニティを作っていくことができるんじゃないかとも考えています。水道道路でマラソンしたいとか、歩行者天国にしたいとか、どんどんアイデアを出して、どんどんチャレンジして形にしていける街。それがササハタハツなのではと考えています。
僕の思い通りになんてならなくていい! 想像を超えた化学変化が起きるはず
ササハタハツ新聞
区長はまちラボでどんなことができると考えていますか?
長谷部区長
僕が何をしたいというよりは、やりたい人がやりたいことをやれる場所であってほしい。区長の僕の思いどおりになんてならないのが当たり前。そんなつもりでやってもないし(笑)。そこで起きる化学変化を何よりも楽しみにしているんです。
ササハタハツ新聞
まちラボという基盤ができあがれば、どんどん化学変化が起きそうですね。今年度の「ササハタハツ(仮称)まちラボフューチャーセッション」を見ていても感じます。
長谷部区長
世代間交流も起きるだろうし、スポーツコミュニティが生まれるかもしれない。今、クラフト系のコーヒーやビール、ワインがはやってるけど、そういうのも出てくるかもしれない。そして、大工さんが多い地域でもあるから、若いコミュニティと交じり合って、DIYのお手伝いをしてくれるかもしれない。僕の想像を超えたイノベーションが起きてくるはずだから、すべてはそのための整備なんです。そうして新しいことが生まれることで、ますます街に誇りを持つ人が増えていくでしょう。
ササハタハツ新聞
旧住民も新住民も、障害がある人もない人も、誰もが楽しめる街になっていきそうですね。
長谷部区長
前にも話したけど、テクノロジーを活用しながら、温かみを感じられる“最先端の田舎暮らし”ができる街になればいいなといつも思っています。僕もササハタハツで、これからどんなことが起きるのかワクワクしています!
区政で驚くようなアイデアを次々に生み出す
長谷部区長ですが、
ササハタハツに関しては
自分からアイデアを出すのではなく、
「やりたい人がやりたいことをやれる場所」
にするための整備こそが行政の仕事だと
考えていることが伺えました。
「こんなことが起きたら楽しい」
「こんなことも実現できるかもしれない」と話す
長谷部区長はワクワク感に満ちていて、
ササハタハツのこれからに
誰よりも期待を寄せているのは区長自身だと実感しました。
※1 廃線跡の高架部分を活用した全長2.3kmの空中公園。パブリックアートの展示などもあり、ニューヨークを代表する観光スポットになっている。運営や管理はいくつかの民間団体が行っていることも注目されている。
※2 木造住宅密集地域。災害時に火災が発生すると延焼の恐れがあるため、整備の取り組みが進められている。
※3 新たな事業やプロジェクトを始めようとする人が、不特定多数に向けて行う短めのプレゼンテーション
※4 腕時計のように身に付けることができる通信端末。心拍数の計測や睡眠時間の記録なども行え、健康管理にも役立つ。