【泉山塁威氏寄稿】ササハタハツエリアの可能性 ーササハタハツ(仮称)まちラボフューチャーセッション参加を通じてー

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2019年度ササハタハツ(仮称)まちラボフューチャーセッションにおいて、「まちラボディレクター」として先進事例の紹介や各プロジェクトへのアドバイスなどをされた泉山塁威氏よりご寄稿いただきました。

泉山塁威 氏
・都市戦術家|Tactical Urbanist|Placemaker
・日本大学理工学部建築学科 助教
・一般社団法人ソトノバ 共同代表理事・編集長
・PlacemakingX, Regional Network Leader, Japan
・東京大学工学部都市工学科 非常勤講師
1984年北海道札幌市生まれ/日本大学大学院理工学研究科不動産科学専攻博士前期課程修了/明治大学大学院理工学研究科建築学専攻博士後期課程修了/博士(工学)/認定准都市プランナー/アルキメディア設計研究所、明治大学理工学部建築学科助手、同助教、東京大学先端科学技術研究センター助教などを経て、2020年4月より現職。
パブリックスペース活用学研究会代表(日本都市計画学会研究交流分科会A)|エリアマネジメント人材育成研究会幹事(日本都市計画学会研究交流分科会A)|パークコンテンツ研究会代表(東京大学・大和リース共同研究)
専門は、都市経営、エリアマネジメント、パブリックスペース。タクティカル・アーバニズムやプレイスメイキングなど、パブリックスペース活用の制度、社会実験、アクティビティ調査、プロセス、仕組みを研究・実践・人材育成・情報発信に携わる。
主な著書に、「ストリートデザイン・マネジメント」(共著、学芸出版社、2019年)など


ササハタハツエリアの可能性
ーササハタハツ(仮称)まちラボフューチャーセッション参加を通じてー

まずは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、世界中が混乱しています。感染症対策はもちろんのこと、医療崩壊、経済損失、外出自粛や在宅勤務など、私たちの生活は一変しました。感染症という見えない敵と戦っていくのは、多くの人が初めての経験で、戸惑いも多いかと思いますが、よりこれからのことを考えさせられる日々です。

さて、ササハタハツ(笹塚・幡ヶ谷・初台)エリアに関わるようになって1年ほどになります。2019年度はササハタハツ(仮称)まちラボフューチャーセッション(以下、セッション)のまちラボディレクターとして関わった経験を踏まえて、ササハタハツエリアの可能性について論じていきたいと思います。

ササハタハツの可能性について、以下のことを考えています。
・ササハタハツの可能性を広げる地域特性
・「ササハタハツ日常」をつくる人たち
・2つの幹となるパブリックスペース
・丁寧な対話の積み重ねによるプロセスデザイン

それでは、ササハタハツの可能性について、紹介していきましょう。

 

ササハタハツの可能性を広げる地域特性

ササハタハツは、大都市東京にあって、渋谷区に位置し、京王線で新宿から近距離な住商混在地域です。「渋谷区まちづくりマスタープラン」の地域別まちづくり方針によれば、人口動態が東京では珍しく、夜間人口と昼間人口が6万人前後とほぼ同じです。驚いたのは、1995年と2015年の夜間人口と昼間人口の数字は大きく変わりはありません。常に、若い世代を中心に転入・転出が一定の割合あるということです。新陳代謝もあり、住み続ける人もいるという理想的な状況ともいえます。

・ウォーカブルな3エリアと徒歩20分圏居住区の可能性
最近、国では、ウォーカブル(Walkable)が政策としても重要視されています。「居心地の良い歩きたくなるまちなか」(ウォーカブル・シティ)です。先日、法改正案も出て、2020年以降の都市づくりの方向性になっています(【速報考察】法律・予算・税制のウォーカブルパッケージ揃う:都市再生特別措置法改正)。「歩きやすい」と「歩きたくなる」は違うものだと思います。歩きたくなるは、want(〜したい)という人間の欲求が含まれており、人が街に出かけて歩きたいなと思える都市にしていこうということです。

ササハタハツを見てみると、笹塚、幡ヶ谷、初台の3駅を中心に徒歩圏(=800m)の円を描いてみました。

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出典:Googleマップを基に筆者加筆

駅を中心に商業施設や公共施設が含まれており、その周辺を住宅地が囲まれているようなTOD(公共交通指向型開発)でもあり、もともとコンパクトでウォーカブルなエリアであるともいえます。また、駅間が近く、歩いていくことができることも特徴的です。オーストラリアのメルボルンでは、徒歩20分圏居住区(20-minute neighbourhoods)の政策を2017年から始めています。徒歩20分というのは、1.6kmです。半円800mの範囲を端から端まで行くことができる距離ともいえます。徒歩20分圏居住区は、「地元で暮らす」ということであり、自宅から徒歩20分以内で日常生活のほとんどのニーズを満たすことができる居住区をつくろうというものです。こういったこともササハタハツではやりやすい環境だと思います。

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出典:オーストラリア・ヴィクトリア州(メルボルン)「20分徒歩圏居住区の特徴」(Plan Melbourne 2017–2050, 20-minute neighbourhoods)

・ミクスドユース(多目的用途)と個性の違う街の集積
また、ミクスドユース(多目的用途)でもあると思います。商店街などの商業もあり、住宅地もあり、適度にオフィス機能もあります。こういったバランスの良さが前述した昼間人口、夜間人口のバランスにも通ずると思います。また、笹塚は急行駅としての商業的な拠点性を有しています。幡ヶ谷は代々木上原近接によるリノベーションされたオシャレなお店も集積しています。初台は、オペラシティや新宿にも近く、オフィス機能などもあります。そういったそれぞれの特徴の違う街が集積しているのも魅力の1つだと思っています。

 

「ササハタハツ日常」をつくる人たち

2つ目のササハタハツの魅力は人だと思っています。そして、ササハタハツの日常を、「ササハタハツ日常」と捉えれば、毎日、ササハタハツエリアで住み、働き、活動する人が重要だと考えます。

・町会・商店街の柔らかな地域コミュニティ
東京の多くのエリアは、企業や不動産デベロッパーが強いイメージがあります。丸の内や日本橋、六本木、渋谷駅前もそうでしょう。ササハタハツエリアは、そういったエリアとは全く異なります。
町会、商店街が地域コミュニティを支えています。住民や商業者はそれぞれ町会、商店街に加入し、地域サービスについて一緒に考え、活動します。しかし、どの街も高齢化や新規の住民やテナントの参加に悩んでいます。私が可能性を感じたのは、町会、商店街の人たちです。世代を超えて、新しいことや面白いことに挑戦しようという人たちが多いように思います。町会、商店街の役割は地域では非常に大きく、町会、商店街でなければできないこともたくさんあります。しかし、やることも多いので負担が大きい。新しい住民やワーカー、活動したい人とのコラボレーションがしやすいというのは、地域サービスや必要なこと、やるべきことを推進する力になると思います。

・子育てママの多様な活動
日常を考えると、子育てママさんたちは日常を支えます。ササハタハツエリアは、子育てサービスも充実しているのか、非常に多いように思います。セッションの参加者を見ているとそう感じます。子育てで忙しい中でも、趣味や仕事などやりたいことをどんどんやる輝いている人たちが多いように思います。子育てママさんたちの趣味や仕事も1つの力になっていると感じます。

・スタートアップの密かな集積
スタートアップも多いような印象です。特に幡ヶ谷エリアはおしゃれなカフェやリノベーションされたお店も見受けられます。しかし、比較的家賃が高いエリアのため、やりたい人が多くてもなかなか入りにくいところがあるように思います。低家賃で入居可能なスタートアップ支援の拠点などがあっても良いかもしれません。

・企業のチャレンジ
セッションの参加を見ていると、社会実験などに企業が積極的に参加したり、セッションのプロジェクトなどにも参加しています。外から新しいサービスを導入したいと参加する企業が増えたりしているのも、ササハタハツエリアの魅力や可能性があるからだと思います。

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2019年度セッションの様子(2枚とも)

2019年度セッションの様子(2枚とも)

2つの幹となるパブリックスペース

ササハタハツエリアは、京王線と並行して、甲州街道と首都高(首都高速4号新宿線)が東西に走っています。これは街のイメージや南北を空間的に分断しており、駅を中心としたエリアイメージがつきにくいなどの街への影響は大きいです。
「ササハタハツ日常」で活動する人たちには、活動する場所が必要です。そこで可能性のあるパブリックスペースは大きく2つあると思っています。

・玉川上水旧水路緑道
まずは、ササハタハツエリア南側にある玉川上水旧水路緑道(以下、玉川上水緑道)です。現在は、緑道として、通り道であったり、公園的な機能、駐輪場と、端から端まで歩いてみると、エリアごとに特徴も違いますし、それぞれ使い方もバラバラです。また一部は世田谷区の範囲も跨いでいます。整備されてから時間も相当経っており、老朽化したベンチやうっそうとした植栽も見受けられます。おそらく当時は考えられて設計されていたのだと思いますが、当時の設計のコンセプトは引き継がれず、管理者も変わっていき、今ではいろんなものがつぎはぎされています。そんな場所では、市民もなかなか関心を示すことや愛着を持つことはできません。

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玉川上水緑道の様子

世界では、アメリカ・ニューヨークのハイライン(HIGH LINE)は高架鉄道跡ですが、市民発意で公園のリニューアル整備に至ったプロセス、NPOフレンズオブハイライン(Friends of the High Line)とニューヨーク市公園課による管理運営がなされています。また、シンガポールでは、マレー鉄道の貨物線跡のリニューアル整備プロジェクト「レールコリドー」が進行中です。コンペ案「Lines of Life」では、それぞれの地域住民とのワークショップから必要な施設やハブを設定していくという対話型プロセスとメリハリのあるリニアパーク整備をしています。
こういった細長い緑道・公園であるリニアパークでは、一貫性のある強いコンセプトともに、それぞれのエリアの地域性や住民との対話プロセス、そして愛着を育むようなプレイスメイキングのプロセスが重要でしょう。

・水道道路・都営住宅
もう1つは、水道道路です。ササハタハツエリアの北側に位置する都道になります。この道路自体を日常的に歩行者中心にすることは難しいように思いますが、環境整備とともに、沿道に注目しています。沿道には、都営住宅と公園が多く立地しています。都営住宅は、非常に長く、ササハタハツエリアのほとんどの水道道路に接しています。都営住宅を見たときに、私は京都の「京都堀川団地再生まちづくり」を思い出しました。団地を再生する際に、リノベーション住戸などで、ものづくり工房やスタートアップ入居を誘致し、交流拠点のカフェや店舗のリノベーションなどを手掛けている団地再生ケースです。公営住宅の必要施設などの条件の読み替えなどは必要でしょうが、こういった公共財産を現代的に必要な機能に書き換えていくことは大きなインパクトを与えるのではないかと思います。

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水道道路。南側には都営住宅が並ぶ

このように、ササハタハツエリアには様々な可能性を感じています。これらを1つ1つ、丁寧なプロセスと対話を積み重ねつつ、スピード感を持って、進めることが重要だと思います。ハード整備などの環境整備も必要ですが、住民やまちの人がやりたい(want)が集積するパワーこそが活動や、愛着、ファンづくりなどにもつながっていくと思います。今後のササハタハツの可能性に期待すると共に、私自身もできることをやっていきたいと思います。

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