「大人も子どもも共に育ちあえる地域に!」保護者有志が『みんなの学校』をササハタハツで上映した理由とは?

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大阪に実在する「地域に開かれた」公立小学校

突然ですが、みなさんは地域の小学校・中学校と接点はありますか?
コロナ禍もあって運動会などの学校行事が地域に公開される機会も減っています。そのため、自分が通っていたり家族が通っていたりするなどの関係がないと、なかなか地域の小学校・中学校の様子をうかがい知ることはないのではと思います。

でも、学校周辺の地域には卒業生も多くいるでしょうし、地域の学校は避難所など防災の拠点になっています。また、最近では、教職員だけでなく、保護者をはじめとした地域住民も学校運営に関わることが子どもたちの豊かな成長にもつながるという観点から、学校の教職員、保護者、地域住民などによる「学校運営協議会」を設置する「コミュニティ・スクール」を取り入れる学校が増えています。渋谷区立の小中学校もすべて「コミュニティ・スクール」となっています。

※画像はイメージです。

では、地域の方々が運営にかかわる「地域に開かれた学校」と聞くと、どんな学校をイメージしますか? 「地域に開かれた学校」になることで、子どもたちや地域にどんなよい影響があるのでしょうか?
その参考になるのが、大阪市立大空小学校(以下、大空小学校)という実在の小学校の取り組みを追い続けた教育ドキュメント映画『みんなの学校』(http://minna-movie.jp/)です。

大空小学校には、障害があって通常の学級での学習や生活が困難な児童のために設置される特別支援学級がありません。支援が必要な児童もみんな同じ教室で学びます。地域住民や学生のボランティア、保護者らの支援も積極的に受け入れ、すべての児童を、「多くの大人」が見守る体制があります。そんな大空小学校の日常を、授業参観でもするようにのぞくことができるのが映画『みんなの学校』です。

2014年に公開されたこの作品は大きな反響を呼び、「平成25年度(第68回)文化庁芸術祭大賞」をはじめ、さまざまな賞を受賞。大空小学校の学校運営に共感した方たちにより、今も全国で自主的な上映会が開催されています。ササハタハツでも、2021年夏に『みんなの学校』の上映会が行われました。
上映会を主催した『みんなの学校をみる会@しぶや』のお二人に、『みんなの学校』という映画への思い、上映会を開催した感想をお聞きしました。

「地域に住む同じ想いの人と出会いたい」気持ちから上映会を企画

上映会の後押しをしてくれた幡ヶ谷中町町会理事であり、渋谷区こどもテーブル「みんなのカフェ大空」代表を務める中村通夫さん(なかむら・みちお 写真中)と「みんなの学校をみる会@しぶや」の大松文恵さん(おおまつ・ふみえ 写真右)、岡田志都さん(おかだ・しづ 写真左)

――「みんなの学校をみる会@しぶや」は何名くらいで運営されていたのでしょうか?

大松さん
上映会の当日は、受付や設営を12名の友人・知人にお手伝いいただきましたが、企画から事後作業までの運営は私と岡田志都さんの2名だけで行ったんです。

岡田さん
2人だけなのでどちらが代表という決まりもなく、上映会当日もスタッフから「誰が代表なの?」と質問されたのを思い出しました(笑)。

大松さん
私は小学生と年長児の母です。仕事は外資系IT企業のマーケティング職が長いですが、都内の児童館で行われている『JUMP-JAM(ジャンジャン)』という運動遊びプログラムのコーディネーターをしていたこともあります。

岡田さん
私は小学生1児の母です。現在は渋谷区内の小学校でスクール・サポート・スタッフ(学校に勤務し、資料作成や授業準備等を行うことで教員のサポートをするスタッフ)をしています。その前は脳トレ速読のインストラクターや傾聴の仕事、美容業界でも16年間ほど仕事し、接客から店舗運営、講師、製造卸しの会社などをしていました。

――そんなお二人が出会って、『みんなの学校』を上映することになったのは、どういった経緯だったのでしょうか?

岡田さん
大松さんとは子ども同士が同じ保育園と小学校で、家も徒歩1分の距離。ママ友の中でも同じ視点で社会や教育の在り方について本音で語り合える仲だったので、毎日本気で話し合っていました。毎日会ってミーティングしていた感じですね。良かった本や記事をシェアしあったり、良さそうなセミナーに参加したり、近隣の学校に「素晴らしい授業をする先生がいる」と聞けばその学校の授業参観に行ってみたり。お互いに理想とする未来のビジョンは共有できていたのですが、それを実現するためには何からやれば良いのか、自分たちにできることが何なのかわからず、手探り状態が数年続いていました。

大松さん
手探りの中、私がネットの記事で大空小学校初代校長の木村泰子先生と『みんなの学校』を知り、こんな学校が公立であるのかと驚いて岡田さんにシェアしました。そこから2018年に上映会に参加して、まさに理想の学校、理想の地域の在り方だなぁと感動しました。その後は木村先生の講演会や大空小学校2代目校長の講演会などにも参加し、2020年10月には木村先生のZoom講演会の運営をお手伝いする機会もいただきました。
私と岡田さんは、生活を共にする身近な地域で、同じ想いの人と出会いたい、地域を活性化したいという気持ちを持っていたので、やがて自分たちの住む地域でも『みんなの学校』を上映してみようとなったんです。当初はコミュニティ・スクールやPTA主催として上映できないかと考えていましたが、簡単には話が進みませんでした。

岡田さん
すぐに上映にはつながらなくても、地域の中でできることをやろうと、放課後クラブさんのお便り作りのお手伝いをしたり、学校リスクを研究されている内田良先生のセミナー運営のお手伝いをしたり、学校の校庭をお借りして『JUMP-JAM』を開催したりしました。
そんな中、上映についてご相談した区議の方から町会で理事をされている中村通夫さんをご紹介いただきました。結果的に、中村さんとの出会いがとても大きなきっかけとなりました。中村さんもすぐに『みんなの学校』の予約を取って見に行ってくださり、中村さんと町会の大きな後押しがあって今回の上映が実現しました。

コロナ禍に阻まれながらの上映会で感じた、多くの人たちの温かい支援

「みんなの学校をみる会@しぶや」主催の上映会チラシ。当初は2021年6月開催の予定でしたが、8月に延期になりました。

――当初は2021年6月に上映会を企画されていましたが、コロナ禍によって8月に延期されるなど、上映会実施までの道のりもなかなか厳しいものがあったのではないでしょうか?

大松さん
上映したいと動き出して足掛け4年目でやっと実現しました。コミュニティ・スクールやPTA主催ではなく、自分たちで上映会を開催しようと動き出したときにコロナ禍が始まりました。いつ、どのように開催するか悩みましたが、町会の応援も心強く、とにかく動いてみようと2021年6月開催で準備を始めました。しかし、緊急事態宣言のため会場が使用できなくなり、8月に延期。申し込んでいただいた方に8月開催のご案内をするなど、作業は増えましたが、6月開催のお申し込み状況から満席になりそうだという期待を持ちながら8月の開催を決めることができました。

岡田さん
8月も上映会直前に東京都の感染者数が1000人を超え、参加に不安な方も多いと感じていました。大松さんと相談し、上映会直前までキャンセルを受付け、返金対応をする事に決めました。もともと少人数での開催だったので赤字覚悟で、ご参加いただく皆さんの健康第一だと。でも、直前での返金対応から予想を上回る大赤字になりそうで、このまま惨めな思いをするのも嫌だー!と感じたのも事実です(笑)。
そこで上映会の前日23時ごろに、会場でご寄付をお願いすることを決心しました。夜中にご寄付お願いのスライドを作成し、段ボールを切って絵を貼って作った寄付ボックスを会場に置いたんです。おかげさまでたくさんのご寄付に救われました! 参加してくださった方々や各方面からお助けくださった皆さんには頭が下がる思いです。必ず次の活動に繋げなくてはと思っています。

――「みんなの学校をみる会@しぶや」のサイトに、上映会後に集まった感想が掲載されていますね。お二人が印象に残った感想を教えていただけますか。

岡田さん
読み応えのある感想をたくさんいただき、うれしすぎて大松さんと「このコメント最高だよね!」「〇〇さんがこんなこと言ってくれていたよ。癒される!」などとLINEで盛り上がり、上映会の疲れが吹っ飛びました。
どのご感想もとても素晴らしかったのですが、特に印象的なのは、

「結局のところ『対話』がカギなのかなと思います。教員どうしも、教師と児童も、教師と保護者も、保護者同士も、地域と学校も。『指示』ではなく『対話』を行っていけたら、いろんなことが変わっていくのではと感じました。」

というご感想です。私もまさに「対話」がキーワードだと思っているので共感いたしました。

ゆくゆくは「安心して対話のできる」場づくりをすることが今の私の目標です。対話を基調とし教員、子ども、保護者などの枠組みや肩書きを超え、対等に向き合えるコミュニケーションを取り入れたいです。他者を理解し受け入れること、それと同時に自分を深く理解することは子どもたちの将来に大きく影響します。対話的な人間が増えることで心理的安全につながっていくことが、安心できる地域づくりの第一歩かなと考えています。

大松さん
感想は、ご自身の経験を含めながら長文を寄せてくださった方が多いのが印象的でした。現在も当会のホームページで感想を公開しているので、ぜひご覧いただければと思います。
「みんなの学校をみる会@しぶや」上映会感想ページ
https://sites.google.com/view/minnagshibuya/aug-1-2021

――上映会をやってみて「よかった!」と思うのは、どのような点ですか?

大松さん
コロナ禍で『みんなの学校』の上映会が全国で2、3件しか企画されていない時期だったため、遠方から参加された方も多く、「どうしても観たい」という方にこの映画をお届けする機会を作れたのがよかったです。また、保護者や地域の方とこの映画を共有でき、いろんな話をすることができたのもうれしかったですね。

岡田さん
私は3つあります。1つ目は上映後に拍手喝采が起きたこと。3回上映し、3回とも拍手喝采が起きました。それだけ心に響く素晴らしい作品なのだなぁと実感しました。
2つ目は、早朝からお手伝いに駆けつけてくださったKさんです。オンラインでは上映開催までの期間、さまざまな相談に乗ってくださった方なのですが、リアルでお会いするのは上映会の日が初めてでした。当日スクリーンにトラブルがあって上映できないかも!と、かなり焦った場面でKさんにお助けいただきました。
3つ目は新型コロナウイルスの感染者数が増えた中で上映会にご参加くださった方、1度延期になったにもかかわらずお待ちくださった方々がいらしたことです。当日お手伝いしていただいたボランティアさん達にもたくさん助けていただいたので、ありがたさとうれしさを感じています。

小さなことからでも、学校と地域のつながる場がもっと増えたら

――私も上映会で『みんなの学校』観させていただいて、学校が「地域に開かれる」ことが、教職員の方々の過剰労働軽減のためにも、子どもたちの豊かな育ちのためにも必要なことだと感じました。
ササハタハツエリアの学校が「地域に開いて」いくために、お二人が今後やっていきたいことはありますか?

岡田さん
上映会後、とある区議会議員の方が「『みんなの学校』を渋谷区のコミュニティ・スクールの研修に導入できたら良いですね」とご提案くださいました。実現していただけたら嬉しいです。また、すでに実現している学校もありますが、学校の畑を通じての食育や、コンポストを導入して給食の食べ残しなどのゴミを循環し、それぞれを授業と地域、地域企業などがコラボしていけたら楽しそうだなと思っています。

大松さん
コロナ禍で保護者でさえ学校に入る機会がかなり制限されています。とはいえ、新型コロナウイルスとの付き合い方もだいぶわかってきたと思いますので、まずは保護者が学校に関わる機会を増やしていけたらと。例えば、運動会の衣装を保護者のボランティアで藍染めして作ったりしたら、保護者同士のコミュニケーションも増えて楽しいなと考えています。

――学校と地域のつながりももっと増えたらいいなと私もいち保護者として感じています。今後必要なのはどんなことだと思いますか?

大松さん
小さなことからでよいので、学校と地域がつながれる場を増やしていくことだと思います。学校公開は現状ほぼ保護者しか参加していませんが、もっと地域の方にも来ていただけるといいなと思います。

岡田さん
学校側ももっと地域を頼って良いのだと思いますが、どこに伝えたらいいのかがわからない現状もあると思います。学校側の要求をしっかりキャッチして、地域がサポートする仕組みをもっと太く、強力にしたいと思っています。
学校現場は、各方面からたくさんのご要望をいただき、求められることが多い場所なのだと感じています。ただ、ご要望を受け取ってそれに応えるには時間と労力が必要で、現場の人間だけで解決しようとすると負担が多く長時間労働は免れません。現在、問題視されている教員の長時間労働も地域、保護者との連携で解決できるようにしたいです。

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