誰もが運動を気軽に楽しめる、未来型の運動場 ~ワクワクから始めるまちづくり~

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今年度の「ササハタハツ(仮称)まちラボフューチャーセッション」
(以下、セッション)で立ち上がった
「インクルーシブ運動場プロジェクト」。
インクルーシブとは「包括的な」という意味で、
福祉機器なども活用し
年齢やスポーツの得意・不得意、
障がいの有無を問わず
誰もが運動を楽しめる場づくりを
目指すプロジェクトです。

今回はプロジェクトの起案をされた積田綾子さんと、
一緒に活動を盛り上げる堀川徹朗さんに、
プロジェクトを立ち上げた思いや
今後の展望などをおうかがいしてきました。

 

障がいのある人がもっと地域と関われる環境を

ササハタハツ新聞
積田さんは今年度からセッションに参加されていますね。どのような経緯で参加されるようになったのでしょうか。

積田綾子さん 小児科専門医。臨床経験を重ねる中、小児期から診療している患者さんに長く携われるよう成人科での診療も希望し、現在は初台リハビリテーション病院に勤務。一般社団法人 日本運動療育協会(スパーク協会)にて理事を務める。

積田綾子さん 小児科専門医。臨床経験を重ねる中、小児期から診療している患者さんに長く携われるよう成人科での診療も希望し、現在は初台リハビリテーション病院に勤務。一般社団法人 日本運動療育協会(スパーク協会)にて理事を務める。

積田さん
私は障がい児の診療にあたる中で、運動を取り入れた治療方法のすばらしさを知り、アメリカの施設へ研修にも行きました。その施設では療育に運動と豊かな感情表現を取り入れるとともに、施設が地域と一体化していて、障がいのある人たちが自然に地域と関わりを持てる環境が整えられていたんです。それがすごくいいなと思って、日本でもそういう環境を作りたいと考えていたところ「渋谷区まちづくりマスタープラン」(※1)のワークショップがあると知り参加しました。さらにそこでササハタハツのセッションがあることを聞き、プロジェクトの起案・立ち上げに至った、という経緯です。

ササハタハツ新聞
縁がつながってセッションに参加されたのですね。一方、堀川さんはセッションがスタートした3年前から参加されていますよね。どういったいきさつで参加されたのでしょうか。

堀川徹朗さん 株式会社渋谷サービス公社に勤務。中幡小学校温水プールで開催されている知的障がい者(児)向けの水泳教室スウィミー運営を担当。幅広い世代の区民への運動指導を実施。

堀川徹朗さん 株式会社渋谷サービス公社に勤務。中幡小学校温水プールで開催されている知的障がい者(児)向けの水泳教室スウィミー運営を担当。幅広い世代の区民への運動指導を実施。

堀川さん
僕が勤務する渋谷サービス公社は、渋谷区内の文化・スポーツ等の施設運営を行っていることもあって、地域との関わりを大切にしているんです。そういった会社の方針もあってササハタハツエリアの施設に勤務するほかの社員と一緒に参加しようという事になりました。加えて、スウィミーで知的障がいのある方やその保護者と関わっている中で、この方たちが活動できる場がもっと地域に増えたらいいなという思いもあり、セッションでその可能性を探りたいとも思っていました。

ササハタハツ新聞
堀川さんは過去2年のセッションにおいて、どのようなプロジェクトに関わってこられたのですか?

堀川さん
色々なプロジェクトに参加しながら、自分にできることを探っていた感じですね。「体を動かす」「まちの中」「障がい者」っていうキーワードが自分の中に軸としてあって、積田さんと出会ったことで、漠然としていたイメージが形になったと感じています。

 

キーワードは「運動を楽しむ」

ササハタハツ新聞
お二人ともお仕事でもかかわりが大きい運動に重点を置かれていますね。運動の有効性はよく耳にしますがどういったメリットがあるのでしょうか?

積田さん
運動によって免疫力が上がることは広く知られていますが、体だけでなく心にも大きな影響を与えるんです。例えばアメリカのイリノイ州にあるネーパーヴィルの学校では、始業前に運動を行う「0時限体育」(※2)を取り入れたところ生徒の学力が向上し、さらに問題行動も減少したという事例があります。私自身も、発達障がいの子が療育に運動と豊かな感情表現を取り入れることで脳機能に改善がみられた例をいくつもみています。ほかにも運動で発生した乳酸は記憶を定着させる働きをしますし、ある程度心拍を上げて運動するとBDNF(脳由来神経栄養因子)という脳の肥料といわれる物質が出てきます。それによってシナプスが成長して、運動を継続すれば思考パターンの多様化に影響を与えることもわかっています。

ササハタハツ新聞
いいことだらけですね!生活全般に良い影響をあたえるのがわかりました。

積田さん
そうなんです。だからこそいろんな人が気軽に運動できる場をつくりたいと思ったんです。

ササハタハツ新聞
福祉機器が気軽に使えれば、運動がより身近になる人も増えますね。
話は変わりますが、プロジェクトを立ち上げた当初は「インクルーシブ運動会」というプロジェクト名だったのが、1月の中間発表会(※レポートはこちら)で「インクルーシブ運動場」に変更されましたね。なぜ変更されたのでしょうか。

堀川さん
昨年12月の企画検討会議(※レポートはこちら)で、チームメンバーから「運動会」のように競技で参加する人や時間を区切るのではなく、始まりや終わりを決めない「運動場」の方が気軽に立ち寄れるのではないか、という意見が出たんです。

積田さん
そのほうがよりオープンになって誰でも参加できる印象を受けるので、私たちが目指すものに近いねという事になり変更することにしました。

ササハタハツ新聞
参加しやすさを重視してプロジェクト名を変更するのは、大きな転換ですね。今、チームのお話が出ましたがお二人以外にはどのような方々が参加されていますか?

堀川さん
プロサッカーチームの運営会社に勤めている方や、子どもの遊び場づくりの活動をされている方、医療関係者の方々など、プロジェクトに対するモチベーションの高い方が集まっていると思います。

積田さん
ほかのメンバーもそれぞれに熱い思いを持っていますよ。みんなで楽しみながら進められていることもうれしいですね。

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ササハタハツ新聞
このプロジェクトは「楽しむ」もキーワードになっていますね。

積田さん
楽しむってめちゃくちゃ大事なんですよ。そういう心理状態の時っていい変化を起こしやすいんです。医療現場でも、やり方にはコツがありますが、普段杖がなければ歩けない方がリハビリ機器で楽しみながらダイナミックな運動をしたら、杖がなくても階段が登れるようになったりしますからね。運動は筋肉だけの問題ではなく、やりたい!っていう意識と感覚(Sensory)も非常に重要なんです。

ササハタハツ新聞
杖がなくても階段が登れるようになるなんて、なんだか魔法みたいですね!

積田さん
ワイワイ楽しむ、それが「やりたい!」につながる。これはどんな場面でも本当に大事だと思うんです。

 

はじめはスモールスタートから

ササハタハツ新聞
楽しいと人も自然に集まってきますよね。そこから新たなつながりも生まれそうな予感がしますが、今後の展望についてはどのようにお考えでしょうか?

堀川さん
3月21日に初回の「インクルーシブ運動場」を開催する予定だったのですが、社会的な状況により延期にしました。状況が改善したら、まずは一度イベントを開催したいですね。楽しみにしてくれていた人も多かったので。

1月24日のセッションでは、福祉機器のひとつとして『e-arm(イーアーム)』という軽い力で動かせる手動レバー式の車いすを紹介してくれました。

1月24日のセッションでは、福祉機器のひとつとして『e-arm(イーアーム)』という軽い力で動かせる手動レバー式の車いすを紹介してくれました。

積田さん
参加された方の反応を見ながら徐々にイベントの規模を拡大できたら、とも考えています。

堀川さん
個人的にはこのプロジェクトで得た知識や経験を仕事に活かしていきたいですね。

積田さん
水泳だったりサッカーだったり、それぞれのお仕事に活かせてもらえれば様々な発展形が考えられますよね。その先に「しぶリンピック」とかね。

ササハタハツ新聞
「しぶリンピック」は積田さんがセッション参加当初に提案されたアイディアですね。リハビリ機器や福祉機器などを使い、障がいのある人もそうでない人も一緒に競技を行う大会でしたよね。

堀川さん
障がいのあるなしに関わらず、誰もが参加できるイベントは、プールを利用する形でもやってみたいと思います。

積田さん
それ、いいですね!そういう未来も見据えつつ、まずは誰もが楽しめる場づくりを、私たち自身がワイワイ楽しみながら進めていけたらいいなと思っています。

 

先ごろ、東京都が砧公園(世田谷区)内に
障がいのある子もない子も楽しめる
「インクルーシブ遊具」を設置した
「みんなのひろば」(※3)
をオープンさせるなど
多様な人が楽しめる場を作る動きは
近年非常に盛んになっています。

誰もが気軽に運動を楽しめる場が増えれば
ササハタハツがますます魅力あるエリアになりそうです。

 

 

※1渋谷区が今後約20年を見据えたまちづくりの方向性を取りまとめたもの。 素案作成にあたり、民意を反映するための意識調査やワークショップ等が開催された。https://www.city.shibuya.tokyo.jp/kankyo/toshi_keikaku/machi_mas.html

※2 アメリカ・イリノイ州のネーパーヴィルにあるセントラル高校で1990年に始まったもの。通常の授業の前にトラックを数周走るが、スピードや走る距離ではなく心拍数が上がることを重要視。これによって走ることが苦手な生徒も積極的に取り組むことができる。

※3 砧公園内に誕生したインクルーシブな遊具の広場。体を支える力が弱い子も楽しめる背もたれつきのブランコや、歩行器や車いすに乗ったままでも遊べる迷路などがある。東京都建設局では障がいの有無に関わらず、子どもたちが共に遊ぶことができる遊び場の整備に取り組んでいる。
https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/jigyo/park/tokyo_kouen/kouen0086.html

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